バランスの基礎理論
回転体にはアンバランスが常に存在します。工作機械スピンドルやツールホルダーも同様にアンバランスが存在します。
アンバランスは回転時に遠心力を発生させ、その力はアンバランス量だけでなく、回転数の2乗分増加します。そのため、同じアンバランスでも回転数が高くなればなるほど、遠心力は強くなります。
遠心力の原因になるアンバランスをどのように測定して修正するのか次から解説していきます。
1. アンバランスの原因
- 非対称な回転体(例:ホルダー(DIN69871)のフランジ部、サイドロックホルダーの締め付けネジなど)
- 製造公差に起因する同心度の誤差(例:テーパーに対する工具外径の同心度による非対称な質量分布)
- 複数の部品からなる回転体の組み立て時の誤差(例:主軸とツールホルダー、ツールホルダーとツールなど)
- 回転体のベアリング配置における同心度誤差(例:主軸のベアリング)
2. アンバランスとは?
2.1 静アンバランス
回転体の重心が回転軸上に無い状態
- 停止している状態で測定可能です。(例:砥石用のバランス測定器)
- 回転時に遠心力が軸に対して直角に生じます。
- 一面でこのアンバランスを取り除くことができます。補正場所は任意で決めることができます。尚、このバランスの修正を行っても偶アンバランスは残留することがあります。
MU = アンバランス量(g)
r = アンバランス量から回転軸までの距離(mm)
M = 回転体の重量(kg)
e = 重心から回転軸までの距離(μm)
FF = 遠心力
静的アンバランス U = MU • r = M • e
アンバランスの単位 [U] = g • mm = kg • μm
2.2 偶アンバランス
回転体の重心が回転軸上にある状態
- 回転している状態でのみ計測可能です。
- 回転時に傾きのモーメントが生じます。(質量主軸と回転中心軸が一致していない)
- 2つのアンバランスの遠心力のベクトルは180°反転し、打ち消しあっています。(横方向の力はありません)
- 二面でのみ、このアンバランスを取り除くことができます。
MU1, MU2 = アンバランス量(g)
r = アンバランス量から回転軸までの距離(mm)
M = 回転体の重量(kg)
FF1, FF2 = 遠心力
MU1 = MU2
FF1 = FF2
2.3 動アンバランス
静アンバランスと偶アンバランスが組み合わさった状態のことを指します。
- 機械のロータなど
3. バランスの修正とは?
バランスの修正とは、回転体の非対称な質量分布を補正するプロセスです。これは、以下の方法で行うことができます。
- 質量の付加 (例:自動車のタイヤのバランス修正)
- 質量を取り除く (例:ドリリングなど)
- 質量の位置の位置を変更 (例:バランシングリング、バランシングスクリューなど)
3.1 一面でバランスの修正(静的)
回転体の静アンバランスの補正
- 回転体の重心は回転軸上に戻ります(偏心 e=0)
- 静アンバランスを補正しても偶アンバランスは残留した状態です。
3.2 二面でバランスの修正(動的)
最良のバランス修正方法(静及び偶アンバランスの修正)
- バランス修正場所は任意で決めることができます。(修正場所は可能な限り最大の距離を置くことを推奨します)
4. アンバランスの測定
測定原理
- ツールホルダーは装置のスピンドルに設置され測定時に回転します。
- 発生した遠心力はセンサーにより計測されます。
- 遠心力の測定はスピンドル側面にある2つのセンサーで計測されます。遠心力の作用方向はスピンドルと一緒に回転してます。結果として正弦曲線のような信号が感知されます。これにより、信号の大きさやスピンドルの角度を算出します。
- アンバランスの算出はこの信号を基に修正面数に適応した修正方法が導き出されます。バランス修正面の場所が変更された場合、アンバランス量は信号を基に再度算出されます。
- 算出されたアンバランスから、バランス修正量が算出されます。
5. ツールホルダーのバランス修正
5.1 バランス等級「G]
DIN ISO 1940-1(以前のVDIガイドライン2060)では、アンバランス測定とバランスの原則を定義しています。バランスの精度は、バランス等級G(以前はQ)で指定されています。
バランス等級は常に特定の回転速度に対してのみ有効です。
許容残留アンバランスは、バランスの等級、回転速度、回転体の重量から計算されます。
Uper = (G•M)/n • 9549
Uper = 許容残留アンバランス量(gmm)
G = バランス等級
M = 回転体の重量(kg)
n = 回転体の使用回転数(min-1)
9549 = 係数(度量単位の換算から結果として生じるもの)
例
- エンドミル装着したコレットホルダー
- 総重量:0.8kg
- 使用回転数は15,000min-1
- スピンドルメーカーが要求するバランス等級はG=2.5
- 許容残留アンバランスは Uper=1.3gmm
5.2 再現可能な精度
上記の例では、許容残留アンバランスは1.3gmmです。この値を説明するために、アンバランスを偏心量に変換すると便利です。
Uper = M • eper
eper = Uper/M =1.3 gmm/800g = 0.0016 mm = 1.6 μm
上記の条件下ではこのツーリングホルダーの重心は回転軸から最大1.6μm以内でなければなりません。バランスをとる際にはBTもしくはHSKを回転軸として想定しています。しかしマシニングセンタでは工具はスピンドルを中心に回転します。
新品同様に優れたスピンドルでも、最大5μm(偏心量e=2.5μmに相当)の振れ誤差があります。
別の例:
バランス等級 G=1
使用回転数 n=40,000min-1
ツーリングホルダーの重量 M=0.8kg
Uper = 0.2 gmm
eper = 0.3 μm
この許容偏芯度(e=0.3μm)に抑えることは現実的に不可能です。
良好なスピンドルのツールホルダー交換の繰り返し精度は約1-2μmです。
また、少量の汚れでもこれらの結果はかなり悪化します。
スピンドルのトータルアンバランスは、多くの部品で構成されています。
- スピンドル自身のアンバランス
- スピンドルの同心度誤差によるアンバランス (回転軸が中心軸からずれている)
- スピンドルに装着するアクセサリーによる同心度誤差 (クーラント、クランピングデバイスなど)
- 側面からボルト等で締め付けるツールホルダーの場合 (引き棒、スプリングなど)
- スピンドルに対してツーリングホルダーの傾きや同心度誤差が発生する場合
- ツールホルダー自身のアンバランス
- 締め付けボルトの振れ誤差
- 工具自身の同心度誤差
- ツールホルダーの部品のアンバランス (コレットチャック、ミーリングチャックなど)
結論:
以上の理由から1gmm以下のアンバランスを補正することは不可能に近く、現実的でありません。